変わったのは「石」ではなく「宝石」だった。
「MEDUSA」は、彼女の3枚目のアルバムである。とりあえず、個人的に印象に残った曲の感想をいくつか書いてみたい。
「ムーンタン」。目の前の霧がすうっと消え、眼前がクリアになったかのような演奏。全体的にゆるぎない安定感と充実感、そして気品がある。彼女は意図してはいなかったのだろうが、結果的に神がかった演奏となった。一種の奇跡。なんとなく現代の古典という言葉が浮かんだ。
「ラマラ―」。このアルバムがリリースされる前、曲リストが公開され、作曲者自身のこの曲の演奏を検索して聴いてみたが、軽めのインプロヴィゼーションでちょっと雑なところもあり...といった趣であまり印象に残らなかった。なんでわざわざこの曲をとも思ったのだが、このアルバムでの彼女の演奏、緊迫感とスケール感に満ちた全く別次元のものとなっていた。
「アナトリア民謡による変奏曲」。たぶん彼女がもっとも思い入れを抱いている曲のひとつではないだろうか。そのためかこのアルバムの中でもひときわ情感にあふれた演奏となっている。
「蜜蜂」。私は、この曲を蜜蜂の群れがせわしなく羽ばたくさまを見つめながら、その情景に作曲者が自己の人生に対して抱く寂寥感や苦味を重ね合わせた曲と理解しているが、彼女の禁欲的ともいえる演奏によって、かえって厚みが加わったように感じられる。
メデューサは、見る者を「石」に変えるというが、彼女はその演奏によって、さまざまな楽曲をより輝く「宝石」に変えようと努めているのだろう。
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